<第35回 小角に死刑執行①> 役行者物語 |
小角を死刑にする為に二人の役人が伊豆大島に遣わされました。
2月25日に伊豆大島に着きました。この時に島の流人たちの間にちょっとした騒ぎが起きました。
囚人たちは新しい流人が来たのではなくただ二人の役人が来ただけでだったので、これは誰かが死刑になる使いである事に気づきました。
都からの役人は島の番人に向かって役の小角が死刑に決まった事を伝えました。島の役人はもちろんの事島の囚人たちも驚きました。
島では日頃は役人も囚人も小角の事を慕っていたからです。
しかし小角はいつもと変わらない様子で悠々と沖を眺めていました。
死刑が行われる事になりました。囚人たちは皆小角を哀れみの同情の眼で事の成り行きを見つめていました。
小角は砂の上に敷かれた藁むしろに上に平気な顔をして座っていました。小角は役人に刀をちょっと貸してくれるように頼みました。役人は斬る事もできずにそっと小角に刀を渡しました。
小角は静かに刀をとって肩、両手、足から腹へとからだを撫で付けました。撫で終わると刀を返してから静かに目を閉じました。
いよいよ、役人は刀をしっかり握りしめさっと振り上げました。
<参考引用 著者 銭谷武平>