<第37回 小角の死刑中止> 役行者物語 |
百姓たちは大変困っていました。自分たちの食べる米はもちろん税金としておさめるものも全くありませんでした。
文武天皇は人々の事をとくに心配して頭を痛めていました。
そんなある夜のこと天皇は夢の中で不思議な童子に会いました。
童子は
「この国の稲も麦も今年はよくできないであろう。この国では聖者を罪に陥れてその上、死刑にしようとしている。そのために天の星の動きもよくない。なぜそんなことをするのか」
と厳しく問いつめました。
天皇は驚いてお前は誰かとたずねると童子は
「われは北斗の星である」
と答えて消えました。
誠に後味の悪い夢で天皇はいろいろ考えて眠れませんでした。
翌朝、天皇はすぐに役人を呼んで昨夜の夢の事を話しました。
すると役人たちは
「それはきっと伊豆に流した役の小角のことに違いありません」
と告げました。また役人は写してきた秘文のことも天皇に報告しました。
天皇は小角を無罪としてすぐに都につれて帰るように命令しました。
<参考引用 著者 銭谷武平>