夢野の氷室 (氷室神社) |
「おや、夢野の中に、ぽつんと何かみえるぞ。ちいさないおりのようだが」
調べてみると、それは何かいわくありげな洞窟であった。そこで、闘鶏稲置大山王という土地の古老を呼んでたずねることになった。
「あれは、氷室でございます。あの岩屋の中は、いつもつめたくひえびえしております。そこでこの土地の者は、冬の間に大きな氷を切り出し、あの岩屋の底の地面を一丈ばかりも掘って底に草を敷き、そこに氷をつめますのじゃ。その上にたくさんの茅などでおおい、土地をかけます。そして氷を保存し、暑い季節になると、氷を掘り出しくだいて水や酒に入れて飲むのです」
「それはめずらしい、よいことをきいた。さっそく天皇に氷をさしあげよう」
とどけられた氷を食べた天皇はとても喜ばれた。こうして毎年、冬にこの氷室に納められた氷は暑くなるころ天皇にとどけられるようになったという。
氷室町1丁目の氷室神社本殿の西には、この氷室のあとと伝える岩屋がある。中には清らかな湧き水がたまっていて、江戸時代には夢野の清水とよばれていた。源平合戦のときにこの清水のそばに、平教経が陣取っていたので、夢野清水は、一名陣馬の井とも呼ばれていた。
参考引用掲載 神戸の伝説
写真 ro-shin