<第16話 小角の山中修行・葛木山にこもる 3> |
身長が五尺七寸(約1.7m)で筋肉は引き締まっています。
日に焼けた顔には髭がもじゃもじゃとはえ、身体は山の獣のように鍛えられていました。
藤の蔦の繊維でつくった布を身体に巻きつけて、わらびやぜんまいなどの山菜や木の実、松の実を口に入れて噛んでいました。松葉を食べると、暗闇の中でも物が見え、500歩も先きを行く人の足音を聞き分けたり、わずかなにおいもかぎ分ける事ができました。
ここへ来るまではあちらこちらと飛び回っていた小角ですが、葛木山へこもってからは、滝に打たれて「孔雀明王呪」をとなえたり、火を燃して、燃え盛る炎の中に何かを感じたりして、仙人のような神通力を持つようになりました。
小角が葛木の山に留まるようになって、いろいろな願い事を持って、山へ訪ねてくる人が多くなって来ました。病気を治して欲しい人や、なにかに取り付かれた人、失くしものは何処にあるか等等、様々な人々の願いが寄せられて、小角の評判は村々に伝わり呪術者としての信頼を深めていきました。
葛木山のふもとの人々や小角を知る人は、小角を新しくうまれた霊能者として、呪術者として敬うようになりました。
その頃山林に入って仏教を修行しようという人が多くなりはじめていました。吉野山にも熊野にも山林修行僧があらわれ、彼らの中には、
他国からの逃亡者や、労役を嫌って逃げ出した人達も混じりこんでいました。そのためか、これを見かねた朝廷では、そろそろ取り締まりをしなければならないと気づき始めていました。
小角の評判を聞いて弟子になりたいと集まってくる者たちが次第に集まって徒党のようになりかけていました。
彼らの中には小角を探りに来たものもいたかもしれません。
<参考引用 著者 銭谷武平 「役行者ものがたり」より>