<第31回 妖惑の罪> 役行者物語 |
役人をやっつけるのは簡単な事ですが、もし母に怪我をさせたら大変と自ら役所へ出かけて行きました。
一言主神の訴えで小角を謀反の罪で取り調べますが、証拠になるような者もなく、小角に関わった人々も呼ばれて取り調べられました。
小角が変な呪いをしたりインチキな薬を飲ませたということで
「妖惑の罪」として裁判にかけました。
その頃定められた律令によると「妖惑の罪」を犯した者は遠流といって地方へ流されるのです。
遠流にも近流・中流・遠流とあって、最も近いのは北陸の越前、愛媛県の伊予、もっとも遠いのは茨城県の常陸の国など六カ国が決められています。
小角は中流の伊豆大島に決められました。
699年5月25日に役人に連れられて船で伊豆大島へ向かいました。
途中、大嵐にあい幾度か船が沈みそうになりましたが、役行者が船のへさきに立って一心に「孔雀明王の呪」をとなえました。すると不思議な事に嵐が止んで波がおさまったのでした。
伊豆大島が見えたときには役人や舟乗りたちは飛び上がって
「行者さま、小角さま」といって心からお礼を言いました。
伊豆大島は周りが約十里もあるかなり大きな島です。島の中心にある三原の山の火口から真っ黒い煙と真っ赤な火が噴き出しています。
小角は島の東北の海辺にある泉津村というところに連れていかれました。
島の流人たちは日焼けした顔に鋭い目をして新しく送られてきた小角の顔を探るような目つきで睨みつけていました。
<参考引用 著者 銭谷武平 「役行者ものがたり」 伊豆大島ガイドより>