美しい善い世界を描こう |
かの無智の画師のみずから衆綵を運んで、
可畏夜叉の形をなし、
成しおわってかえってみずから之を観て、
心に怖畏を生じて
たちまちに地にたうるるが如く、
衆生もまたまたかくの如し。
吽字義 全集一
愚かな絵描きがいろいろな色を使って恐ろしい鬼の姿を描いて、描きあがってから自分でこの鬼の姿を見て恐ろしさのあまり、急に気を失って地に倒れ伏してしまったという話のようなものである。
私たちは、一人ひとりが自分自分の好きな世界を描いているのだが、法(真理)を知らない凡夫は、善からぬ思いを胸に描いて、人を苦しめて平気な絵を、次々と得意になって描き、描き終わって、その描いた恐ろしい姿の環境に取り囲まれて今度はつぶさにその苦しみを受けるのである・・・と。
私たちは毎日毎日自分の身体を使って絵を描いているようなものだ。ただ、それが絵の具や絵筆ではなくて、身体や言葉や心で描くというわけである。しかし基本的には自分の世界を自分で描いているのだが、その影響は周囲にまで及んでいく。
したがって美しい善い絵を描きたいものだ。それは、自分自身をより善く形作るものであると同時に、まわりの人を幸せにするものである。反対に、汚い、恐ろしい、冷たい、暗い絵を自分も描かず、また他人にも描かせないようにしたいものだ。それは、自他ともに迷惑するからである。
引用掲載 弘法大師空海百話 佐伯泉澄 著者